溶解大陸

アニメの感想とか書きたいなあ

コントとしてのプリンセスプリキュア 12話 「きららとアイドル!あつ~いドーナッツバトル!」

女児向けアニメと聞いて即座に拒否反応を示す人も居るかもしれない。なにせ、我々の大半はもう良い歳した大人である。「小さな子ども、それも女の子が見ることを想定したアニメを、良い歳した大人の自分たちが楽しめるわけがない」そういう思いに捕らわれていたとしても、誰も責めることはできない。私もかつてはそのような大人の一人だった。しかし、今や私も女児アニメの虜である。プリプリからプリパラ、ジュエルペットまで、定番の女児アニメは広くカバーするようになってしまった。私がこうなった理由は何故か?女児アニメが大人の観賞に耐え得る、丁寧に作られた完成度の高いコンテンツだからである。このことを知らない人間はまだ多いはずだ。だから私は一つの使命を帯びてこのブログを運営している。「女児向けアニメは大人が見ても面白い」という事実を人々に広く知らしめる。私が密かに持っている目標の一つである。

 

既に女児向けアニメを見始めてしまった大人の方なら、この事実を良く理解して頂けると思う。「わかる・・・(スゥーッ)女児アニメ、最高!!」と。けれども、まだ女児アニメなんて見たことのない大人からするとどうしても「そんな訳がない。女児アニメを大人が見て楽しめる訳がない」という気がしてしまうものなのだ。この記事は、そんな考えを持つ大人たちに「女児向けアニメは大人が見ても面白い」ということを伝えるために書いた物である。

 

今回のテーマはコントだ。プリプリ12話は完全にコントだった。女児アニメのコントなんて本当に楽しめるのか?それについて考えていきたい。結論からいうと12話はきちんとコントとして成り立っており、最高に面白い回の一つだった。その面白さを理解するには実際に見て頂くのが一番なのだが、見逃してしまったり女児アニメへの偏見が強くて重い腰が上がらないという人も居るかと思う。今回は拙筆ながら、プリプリコントの面白さが少しでも伝えられるように頑張ってみたい。

 

12話のあらすじはこうだ。

テレビの食レポ番組に出ることになったきららたむ。普段はそんな番組に出るきららたむではないが、今回は好きなドーナツ屋の新商品が食べられるということで参加してしまった。そこで、その番組のレギュラーリポーターである一条蘭子と出会う。蘭子はボケた性格だった。初めはそんな蘭子を変な子としか見てなかったきららたむだが、新作ドーナツを賭けた3本勝負となると、ライバル意識むき出しの蘭子にきららたむも負けたく無いと思い始める。3本勝負のラストでは、欄子のテレビに対する熱い思いを感じ、欄子のことを認め始めるきららたむ。勝負が終わると、いつも通り悪役のシャットが夢を持つ蘭子をゼツボーグ化させる。欄子のことを認め始めていたきららたむはプリキュアになり、蘭子を無事に救い出す。

話の流れはざっとこうだ。これがいかにしてコントと化すのか?それを説明していきたい。

 

まず、話の空気作りだ。そもそも前回の11話が非常にシリアスな話だった。敵の迫力が凄まじく、もう良い年をした私でさえ少し恐怖を感じたくらいだ。女児ならば普通に泣いていたと思う。ボロボロになりながらも力を合わせ、ギリギリのところで強敵に勝利するプリキュアたち。それが前回の話だった。そこから急に方向転換し、間に日常回を挟むなんてことはせずに、バリバリのコント回をいきなりブチ込んでくるのだ。並の神経ではない。視聴者がついていけない展開の早さである。しかし、プリプリではいともたやすくコント回への空気転換を実現してしまうのだ。

話の冒頭、「わたし、みんなの力になりたい」とゆいちゃんが語気を強めて言う。それを見てゆいちゃんのことを仲間と認めるプリキュアの3人。ここまで時間にして30秒。前回の話までのシリアスな流れは、これでおしまいである。前回までの流れに冒頭の30秒でオチをつけてしまう。前回倒した敵やら新たに手に入れたアイテムについては全く触れられない。前回は前回、今回は今回なのだ。女児向けアニメは基本的に、前回までの流れをグダグダ引きずったりしない。
「よろしくパフ」というパフに「こちらこそ」と返すゆいちゃん。直後、ドアを叩く音がなる。新たな来訪者だ。それはきららたむが所属するプロダクションの社長だった。

 

社長はきららたむに仕事が持ってくる。グルメリポーターの仕事だ。真面目にトップアイドルを目指すきららたむは「もーやるわけないじゃーん」と最初は断るのだが、仕事で自分の大好きなドーナツの新作が食べられると聞いて、ついつい引き受けてしまう。
視聴者である我々も、そんな食べ物に釣られちゃうような可愛らしい一面を持つきららたむを見て安心する。最初はクールに断ったにも関わらず、食べ物に釣られてしまって恥ずかしがってるきららたむの表情が、これだ。コミカルだし、とんでもなく可愛い。

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確かに1話前まではシリアスな空気感だった。視聴者側がシリアスからギャグに頭を切り替えるのには、普通時間がかかるものだ。しかし、こんなきららたむを見て、それでもシリアスな展開を引きずるような視聴者がいるだろうか?導入時点で我々は11話でのシリアスムードを忘れ、きららたむの可愛さによって非常にリラックスした状態にさせられるのである。コントへの準備は、OPが始まる前に完成するのだ。

 

その後、食レポの番組取材のシーンになると新キャラである一条蘭子が登場する。先輩リポーターとして、新人のきららたむに敵意むき出しで登場する蘭子。この時点では視聴者にとって蘭子の行動はとても奇異に映る。なぜなら、まだ欄子のことを「ボケ」として認識していないからだ。

ドーナツ屋をリポートするシーンでは、蘭子がカメラにアップで映ってきららたむの仕事を途中で遮ったりする。少しイラっとするシーンだ。きららたむが真面目に仕事をしようとしているのに、蘭子は「きららたむを邪魔したい」という独善的な思いから仕事の邪魔をする。リラックスはしつつも脳がまだ真面目モードから抜け切れていない我々は「この行動は仕事人としてヤバイんでないの?」と思ってしまうのだ。蘭子のせいでリポートが成り立っていない。
ところが、一番の責任者である監督はこの有り様を「いいね~」の一言でまとめてしまう。ここで我々は「おや?」と違和感を持つ。監督は俺たち側の人間ではないのだろうか?と。蘭子によってリポートはメチャクチャである。真面目に仕事をするつもりであれば、監督として蘭子の暴走をたしなめなければならないはずだ。それを「いいね~」の一言で終わらせ、あまつさえハイテンションで「さてここからはマーブルドーナツ三本勝負をしてもらいまーす」とか言い出す監督。

視聴者である我々は、監督の反応をみて違和感を持った時点で、既にコントの世界に足を踏み入れてしまっているのだ。普通ならば監督は怒り出すはずだ。それにも関わらず監督は満足気。とすると、これは普通の世界観ではない?深く考えても無駄なのか?思考を放棄しろということか?我々は徐々にコントへの受け入れ体勢を整えていくことになる。

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ちなみにコントが始まることへの伏線は、見学しているはるか達によって張られている。テレビに映ることを期待してリボンを徐々に増やしていくはるかに、ゆいちゃんが「リボンが増えてる・・・」とツッコむのだ。「テレビに出られるかも、なんて期待を密かにしてんのかよ」というツッコミを、非常に軽くしたものである。軽くボケるはるかに、ゆいちゃんが軽くツッコム。この軽いコントも、後にある蘭子による本格的なコントの前段階となっている。

 

新作ドーナツの試食権がかかった三本勝負が始まると、そこからはもう雪崩のように欄子のボケが強まっていく。1戦目のゆるキャラお絵かき対決では、普通に可愛いデザインをするきららたむに対して「ん~もぉ、これだから初心者は」と呟いた後、とてもじゃないが女の子が描いたとは思えないゆるキャラ「根性ドーナツくん」をばばーんと出す蘭子。だがこれはギャグとしてまだ軽い。しかし、これはこれでいいのだ。まだ1戦目だからである。
第2戦の食レポ対決では、ばっちりと決まった正統派のレポートをするきららたむに対し、蘭子はまたしても「ふっ・・・そんなんじゃ全然伝わんないわ」と言いつつドーナツをかじり「こ、これはっ!!」と雷のエフェクトを使ってまで過剰なリアクションを取る蘭子。そこからはミスター味っ子的な過度なリアクション芸が始まる。この段階で、我々は蘭子が芸人であることをようやく理解し始める。食レポを求められてミスター味っ子的なリアクション芸をしてしまう子が、芸人でないとしたら何であろうか?

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リポートのシーンで引っかかっていた蘭子の態度も、ここにきて腑に落ちる。芸人ならば、リポートを引っ掻き回すのも致し方なし。監督も、蘭子を芸人として扱っていたからこその満足気な態度だったのだ。我々は、リポート時での蘭子の態度を許すと同時に、蘭子のことをボケを担当する芸人キャラとして捉え始める。ここにきて準備は全て整った。芸人としてボケをこなす蘭子、そしてそれにツッコミを入れる周囲の面々。コントの土台となるボケとツッコミの役割分担がここにきて明確になるのである。

そして、視聴者が今回の話をボケとツッコミが出てくるコントの一つとして認識できた第2戦目が終わり、続く第3戦目においてボケの強度は最高潮を迎えることになる。

 

自身で描いたゆるキャラのきぐるみを着て競争をするという第3戦。もはや、この絵ヅラだけでもシリアス要素など一片も無いことが分かる。

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きぐるみを着ることを躊躇するきららたむ。きららたむはクールな性格なので、こんな”ヨゴレ”がやるような仕事は本当ならやらないのだ。ところが、「蘭子みたいのだけには負けたくない」という思いからきぐるみを着て勝負をするきららたむ。

不思議なのは、ドーナツ姫のきぐるみを着ているきららたむが、そこまで”ヨゴレ”の仕事をしているようには見えないことである。普段の回できららたむがこんな格好をしていたら凄く不安定な気持ちになっていただろう。しかし、今回は隣に蘭子が居る。根性ドーナツくんの姿をした蘭子が。こちらの”ヨゴレ”度と比較すると、ドーナツ姫なんて可愛いものである。芸人に徹している蘭子が居るおかげで、間抜けなドーナツ姫姿のきららたむが普通に可愛く見える、という現象が起こっている。これも、蘭子が持つボケ要素が非常に強いからだと言えるだろう。

 

ボケのレベルが一定の閾値を超えてしまったきぐるみ競争対決。この状況をツッコミによって収拾させられるキャラが居るのだろうか・・・と不安に思っていると、思わぬところからツッコミが飛んでくる。なんと、みなみん。ここにきて、みなみんがツッコミ役と化す。

テレビ撮影ではしゃぐはるかに対しては「落ち着いてはるか、テレビに出るのはきららよ」と、ゆるキャラお絵かき対決では「きららは服のデザインもしているからきっと大丈夫よ」と、いつでも冷静にコメントしていただけのみなみんが、なんとツッコミ役になってしまう(前者も見ようによってはツッコミだが)。以下がその内容である。

 

きぐるみを着たまま走りだすきららたむと蘭子。それ見て

みなみん「すごく走りづらそうね」
ゆい「まぁ、きぐるみですしね」

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非常に高度なツッコミである。要するに「こいつら必死になって何やってんの?」を「すごく走りづらそうね」とし、婉曲的に言っているのだ。ゆいの冷め切った受け答えもその冷静さに拍車をかける。ちなみに、みなみんの性格から考えて本心から「すごく走りづらそうね」と言っているのだろうが、汚れた大人の我々からするとどうしても皮肉として捉えられてしまう。だからこそ、ツッコミとして成り立つのである。

ここで注目したいのは、今まではただの冷静なコメントに過ぎなかったみなみんの言葉が、今までと変わらぬテンションだというのにここに来てツッコミと化しているという点である。ツッコミ役でない人間が話の流れでツッコミと化してしまう。コントとしてはとても高度なことを行ってるという気がするが、どうであろう。

ちなみに、これまでのプリプリをずっと見てきた私としては「みなみんがツッコミをしている」というだけで非常に面白かった。「そんな配役があり得て、更にそれが成立するのか・・・」と震える思いがした。

 

ここで一度まとめよう。蘭子のリアクション芸という概念を理解するのも、みなみんの冷静な言葉を面白く感じるのも、大人にしか出来ないことである。いや、私が女児をなめているだけで、ここに書いたような面白さをおぼろげに理解している女児も居るのかもしれない。しかしやはり、このような面白さを明確に理解できるのは大人だけであろう。女児アニメを見る者による「最近の女児アニメは女児向けに作られている気がしない」という言葉の源泉はこういったところにある。

 

さて、きららたむと蘭子はきぐるみを着たまま白熱したデッドヒートを繰り広げ、ラスト付近で蘭子は倒れてしまう。このときの様子がこれだ。

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みなみんとゆいのやり取りのよって冷静な目線を手に入れている我々は、内心「こいつら必死に何やってんだ・・・なんなんだこれ・・・」とシュールさを感じてツッコムことになるのだが、なぜか劇中では熱いBGMが流れている。その後は怒涛の展開が始まる。これについては勢いが凄まじすぎて、文章で面白さを伝えられるような物ではないのだが、一応がんばってみよう。

 

倒れた根性ドーナツくんを置いてきららたむはゴールに到着。観客は熱狂。喜ぶきららたむ。すると突然、観客から声があがる。
「お、おい!見ろよ!」
まさか!?そう思って振り向いてみると根性ドーナツの奴が立ち上がろうとしている。
「根性ドーナツくんがっ・・・!」
さっきまでの冷静さはどこへやら、まだ立ち上がろうとする根性ドーナツくんの根性に感動し、涙目で叫ぶみなみん。

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「もう勝負はついているのに・・・凄い・・・」
はるかも根性ドーナツくんの根性に愕然とする。

身体はもうボロボロだ。それでもゴールしようと必死に走る根性ドーナツくん。勝負はついても、最後まで諦めない。それが根性のあるドーナツ、根性ドーナツくんなのだ。
その姿に観客たちは心を打たれ、声援が飛び交う。
「がんばれ!ガッツドーナツくん!」
「がんばれっ!気合ドーナツくん!」
「素晴らしいよ・・・あっぱれドーナツくん!」
「ナイスファイト!ドーナツ野郎!!」
みんなの応援を受け、根性でゴールする根性ドーナツくん。しかし、全ての根性を使い果たした根性ドーナツくんは、真っ白な灰に燃え尽きてしまうのだった・・・

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もう着いていけない。いや、ついていけるがツッコミが追いつかない。ここに至り、ツッコミは消失している。畳み掛けるようなボケの連続に我々は圧倒されるのみだ。しかしこれが、とても面白い。もし私がこのシーンをニコニコでの放送で見ていたとしたらコメント蘭に「wwwww」しか打てなかっただろう。この面白さも、12話の冒頭からボケとコントのムードを徐々に高めてきたからこそ得られた物である。丁寧に積み上げた先にこの「燃え尽きた根性ドーナツくん」の一枚絵があるのだ。

しかし、前回のドシリアスな11話を見た直後に12話がこんな展開になるなんて予想できた人が居ただろうか。全く予想もできない超展開も女児アニメの魅力かもしれない。

 

そして最後に、毎度のお約束通り、ここまでボケにボケ倒した蘭子のもとへとディスダークの魔の手が忍び寄る。敵のシャットは今までの展開を「熱くるしい」と切り捨て、蘭子をゼツボーグへと変えるため、夢の扉をこじ開ける。

シャット「あなたの夢を見せなさい」
蘭子「テレビに輝くトップアイドルよっ!!」
シャット「えっ?」

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ここでなんと、ボケである蘭子は、ついには敵にまで「夢はコメディアンなのでは?」とツッコマせることに成功する。流石に敵もツッコマざるを得ないほどのボケだったのだ。さぞや蘭子も芸人として満足だろう。

しかもこのシーン、シャットがツッコむ相手は夢の中の蘭子である。今までの話では夢の中のキャラは一枚絵としてしか登場しなかった。それなのに、今回は夢の中の蘭子に敵がツッコミ、夢の中の蘭子がそれに応える。非常にメタい。高度な演出である。

更に畳み掛けるようにして、なぜかドーナツ姿のゼツボーグに変身してしまう蘭子に
「夢はアイドルじゃなかったのかしら・・・」
と即座にツッコミを入れるみなみん。ボケに対してはツッコミを入れる。それがコントの基本である。

 

今回の流れはだいたいこんな感じだった。その後プリキュアがゼツボーグを倒し、蘭子を救い出す。最後に蘭子が同じ学校の生徒であることが明かされて終わる。

コントとしての完成度はとても高いと思う。既に見た方ならば私がいちいち説明せずともお分かりだろう。「どうせ女児向けアニメなんて」と考えている人は、是非とも一度プリプリを見て頂きたい。大人でも満足できる、というか、大人にしか理解できないのでは?と思えるような高度なネタが各所に配置されている。

女児向けアニメは、もはや女児だけに向けられたメディアではないのだ。今の女児アニメは大人に見られることを望んでいる。「女児向け」という言葉に引っ張られて「アニメは見るけど女児向けアニメはちょっと・・・」という人はまだまだ多い。そんな人たちに、女児向けアニメは大人が見ても楽しめる、ということを少しでも伝えられたら幸いである。


今回はコント回だったが、クローズの二の舞にはなりたくないと考えているシャットや、きららたむと蘭子が仲良くなるまでの過程もきちんと描かれていた。コントだけに始終せず、物語に必要な要素はきちんと盛り込んでくるのがプリンセスプリキュアである。アニメ好きだというのにこのとても丁寧に作られた女児向けアニメを見ないのはもったいない。私は本ブログにおいて「大人が見ても女児向けアニメは楽しめる」ということを今後も痛切に訴えていくつもりだ。

最後に、みなみんの「ドーナツ生地が柔らかいのね」はちょっと滑っていたよね?という疑問を添えて本記事は終わりとする。